SSS2008
今日は発表がぎっしり詰まっている。 特に興味をひかれた発表について:
布施泉氏(北海道大学)らが教科「情報」が実施される前から行なっている調査によれば, いくつかの設問については「わからない」から「自信をもった誤答」に移行している 状況があるという。「音楽CDの曲を他人がアクセス可能なコンピュータ上に置くこと」の 是非については,iTunesやYoutubeの状況から誤解しているのだろうという解釈がなされている のでまあいい。問題は「引用」に関する「公開された著作物を引用するには著作者の 許可が必要であるか」という設問について上記の状況があることだ。 著作権に関する教育はほとんどの学校でなされているだろう。 しかし,それが「とにかく何でも許可なしにやっちゃだめ」みたいな話になっている (少なくとも生徒の印象が)状態になっていないかということだ。 論文には
著作物について考察する場合には,通常は,他人の著作物の保護に関する教育を 全面に進めていると考えられる。 CITE 『SSS2008 情報教育シンポジウム論文集』p.22 とある。本校はどちらかというと,18〜28条あたりはさらっと流して, 30〜38条あたりに重点を置いているので,この結果が意外なものに思われた。
単なる○×でなく,それに自信度を付加する形での回答をさせたことが, この調査結果に結びついたわけだ。 授業者の思い込みに陥らないためには,このような事例をさらに増やすことが 求められているのだろう。本校では3学期に著作権などの話をするので, 何か準備をしておきたいところだ。
青木浩幸氏(高麗大学)らによる中学技術科での計測制御に関する発表を見て いくつか心配なことが頭に浮かんだ。 学習指導要領は「プログラムと計測制御」ではなく,「プログラムによる計測制御」 なのだということだ。 技術科の教員はコンピュータに明るいとは限らない。彼らの中に自分の手で 「プログラミングによる計測制御」をやってきた人はどのくらいいて, その実践をどのくらいイメージできているのだろうか。 学習指導要領で必修と定められた以上,教科書には掲載されるはずなのだが… 恐れるのは,適当な「逃げ」の手法が広まってしまうことだ。 そうなる前に,真っ当な手法が広まってほしい。
三浦元喜氏(北陸先端科学技術大学院大学)の Anchor Garden はおもしろい。私自身,Javaでプリミティブ型とオブジェクト型を意識しなくてはいけないことで いくらか混乱した経験がある(C++の経験が助けになったが)。 それをこうやって図示するのは確かに意味があると思う。
荒木恵氏(慶應義塾大学)らが行なった,プログラミング教育の導入のための ワークショップにも興味をひかれた。プロジェクトに関わるいろいろな 立場…施主・設計者・プログラマ・テスタ…のコミュニケーションを体験しようというもので, ここにアンプラグドの考えが用いられている。 私が行なう情報の授業ではこのような役割分担について触れることは想定しないが, 言語による意思伝達のシビアさは何らかの形で体験させたいと考えていたのだ。 具体的な授業の形はまだ思い浮かばないが,じっくり考えてみたい。
阿部圭一氏(愛知工業大学)の『良い情報表現のための一般原則』は今回の発表の中で 異色だったかもしれない。 「知的生産の技術」や「発想法」などのLife Hackが提唱されてからずいぶん経つ。 阿部氏がこの発表や著書『明文術』で行なおうとしていることは, それの現代版のように思えるのだ。
ナイトセッションのとき,Unplugged本(購入したPDFをプリントアウトして 2穴バインダに閉じたもの)にTim Bell氏のサインをいただいた。