不定期戯言

戻る

2010.08.21 (Sat)

全国高等学校情報教育研究会

・19日の夜行バスで金沢に移動。駅内の白山そばで朝食をとったり,駅そばのサウナで休憩したり。

・まず文科省永井視学官の講演「新学習指導要領と教科『情報』」。内容の骨子については既に我々は何度も耳にしている。問題は,我々以外の人が「情報」を中心に行なわれる日本型情報教育について知らなさすぎることであるとの話。そのために「情報=コンピュータ」というような間違った認識が世にはびこっている。この件については夜の懇談会で永井氏に直接訴えた。たとえば先日名古屋で行なわれた学習指導要領説明会では,情報と公民の連携について,情報では説明があったのに公民では説明がなかった件。あるいは我々が日本型情報教育をいかに理解していたとしても,それを知らないクラス担任,他教科の教師,中学の教師が間違った認識をすり込んでいる件。

・ポスターセッションでは,近藤敏文氏(天白高校)が色の三原色の説明のためにプロジェクタのディスプレイケーブルを切断し,RGBをつなぎ変えることで色が変わることを示すという実践を紹介していたのが興味深かった。ケーブルは「複合同軸」と書かれているものを選ぶと,余計な線を切らずに済むので作業しやすいとのこと。最初はスイッチで切り替えることも考えたというが,それよりもこのようにクリップでやる方が直観的でいいと思う。また,能代茂雄氏(都立上野高校)は都立の情報教員だけをメンバとするSNSの話。守秘事項に話が及ぶこともあるので,メンバをむやみに広げないことも時には必要だと。なるほど。小原格氏(都立町田高校)はジャストシステムのテキストマイニングソフトを使って自由記述から傾向をつかむという話。たしかにこれは有用だと思うのだが,問題はソフトウェアが高額だということ。

写ってるのはスイカクリップでつなぎ変えができる

・「『基礎情報学』と『情報C』」中島聡氏(埼玉県立大宮武蔵野高校)
高校の情報科,特に情報Cは親学問がないということがよく話題になる。そこで西垣通氏(東京大学)らが研究している「基礎情報学」をその根拠にしてはどうかという提案。私の考えとは必ずしも相容れないところがあるが,情報やその伝達というところに背景を与える方法の一つではありえるだろう。

・「問題解決力をつけるために」江守恒明氏(関西大学中等部高等部)
問題解決はすべての知的な機能の中で最も複雑な思考である。その獲得については単純なノウハウがあるわけではなく,生徒には実体験を通じて身につけさせることが求められる。もちろん「問題の発見と明確化」→「分析」→「解決策の検討」→「実践・結果評価」→…というサイクルや,各種手法(シンキングツール,ブレスト,ディベート,KJ法,図解法…)については説明するが,きちんと時間をとってそれを実践する活動をしなくては何の意味もない。同校では中等部で「考える科」として13コマの実践を行なっているとのこと。

・「アルゴリズム的思考による計測・制御と問題解決学習」稲川孝司氏(大阪府立東百舌鳥高校)
ヴインストン社の台車型ロボットBeauto Racerを教材として用いた。このロボットはUSBでPCと接続して,作ったプログラムを送りこむことができる。これのシミュレータがよい出来で,画面上でフローチャートによってプログラムを作り,その動作を画面上で確認することができる。開発手順は,そうやってシミュレータ上でプログラミング・動作確認したあと,実機にプログラムを流し込んで動作確認するということになる。このシミュレータ自身はLinux上でwineを用いて動作させることができることを自分のノートPCで確認した(ただし実機がそのままではUSBデバイスとしてうまく認識されない)。フローチャートが構造化されていないことは,私にとっては不満ではある。私自身も興味があるのでBeauto Racerは1台購入した。そのうちじっくり遊ぶつもり。

デモ

・「モデル化とシミュレーションについての実践」野部緑(大阪府立桃谷高校)
この単元では数式モデルを扱うことになるが,実は現実にあることをモデル化することは極めて難しい。これは数学の文章題がたいてい嘘臭く見えるのと同じで,高校生の能力で自らモデルを設定してシミュレーションを行うというのはあまり現実的でない。そこで逆に,数学の文章題にあるような問題を題材にモデル化を行い,それをPCで解いてみようという実践である。私見であるが,たとえば数学でよく扱われる2変数の線形計画法,あれの解答が書ける生徒のうちどれだけがちゃんとしたイメージを持てているだろうか。イメージが持てずにただ機械的に計算式を書いている生徒がいるとしたら,この実践が逆に数学の理解にも役立つと思うのだ…ということをコメントしようと思ったが時間切れ。

・家へのおみやげは中田屋のきんつば。わりと軽い感じの甘さでいい感じ。

きんつば

コメント(7)

だきわ wrote at 2010-08-30 05:01:

ああ、いいなあ。全国の皆さんがんばってるんですねえ。
こんなきっちりとした研究も実践もしてませんが私。(汗)
それでもいいですか?

わたやん wrote at 2010-08-30 09:01:

私も名前だけはある程度知られているので,こういうところに行くと「発表とかしないの?」と聞かれてしょぼんとしてしまいますが,どの場に行っても自分の立ち位置で話ができればそれで自分に意味はあるだろう(それしかできんし)とも思っています。
永井視学官に伝えたのは,例の学習指導要領説明会の一件です。「やっぱり公民では言わなかったよね」とのこと。

だきわ wrote at 2010-08-30 11:16:

どうも数学(後日実施されたの)では連携を言われてたみたいよ。

わたやん wrote at 2010-08-30 11:42:

だきわさんが指摘した甲斐がありましたね。

こん wrote at 2010-08-30 15:31:

紹介していただいて、恐縮です。
内容はともかく、発表することで情報交換のネタになればと思い、気楽に参加してます。

わたやん wrote at 2010-08-30 16:31:

発表の内容を自分とこでそのまま使うってことはなくて,その中からアイディアをもらうということですよね。見る側も感想を伝えることで反応を起こすことができると思うので,必ずしも発表する側でなくていいやとも思っています。

こん wrote at 2010-08-30 21:30:

コンピュータは高性能になったけど、昔に返って、もっと、単純で、素朴で、電気が流れていることが実感できるよなものを、情報の授業に取り入れたいという思いから生まれた教材です。なおかつ、速い(簡単にできて)、安い(材料費は安く)、美味い(生徒がへーっと言ってくれる)が条件ですけれど。

発表をしたことが踏み台になって、新しいもの生まれてくると面白いですね。皆さんからいただいた感想が、次につながります。我が県にもそいう場を作りましょう。ざっくばらんに、ゆるーく。ノンプレッシャーの会を。

コメントの受付は終了しました。